真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 February 19真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第17回 ジークフリードと英雄伝説

「暗黒時代」の英雄像

ローマ帝国時代にキリスト教が広まって以来、「英雄」のイメージは大きく変わっていきます。ギリシア神話の英雄たちのように、「神々の血を引いている」という言い方ができなくなってしまうわけです。唯一神以外に神は存在しないという理屈から、それ以外の「神と呼ばれていた存在」は下手をすると「悪魔」と呼ばれることになってしまうのですから、言い続けていたら大変なことになります。

とはいえ、ヨーロッパにはケルト神話や北欧神話、あるいはゲルマン神話と呼ばれる多神教的な古い宗教があって、そこにはギリシア神話同様の英雄たちの物語がありました。特に『メガテン』好きな私たちに馴染みがあるのは、第2回でも触れたケルト神話の英雄クー・フーリンです。
 クー・フーリンはローマやキリスト教の影響が及びにくかった「島のケルト」ことアイルランドの神話の代表的キャラクターで、太陽神ルーの息子ともされる半神的英雄です。『メガテン』には幼名「セタンタ」としても登場しているのですから、まさにお馴染みの「悪魔」というわけです。「影の国」と呼ばれる冥界の女王スカアハを師匠とし、魔槍ゲイボルグを授かりそれを武器として活躍しますが、「犬を食べない」という自ら課した「誓約(ゲッシュ)」を破らざるを得ない状況に追い込まれ、自らの武器ゲイボルグに貫かれ死ぬことになります。この英雄伝説が非常に古いものだということは、クー・フーリンがローマ時代の「戦車(チャリオット)」に乗って戦う姿が描かれていることからも窺えます。

ケルト神話にはもうひとり有名な英雄として、フィン・マックールがいます。クー・フーリンが活躍した時代から数百年の後の時代、戦車ではなく騎馬で戦う騎士になっているためキリスト教伝播以降の物語と考えられますが、フィン・マックールには「島のケルト」の主神とされるヌァザの血族という説があったり、クー・フーリンの父とされる太陽神ルーそのものとする説もあるなど、古い伝説がキリスト教伝播後に変化したことを窺わせる存在でもあります。
 フィン・マックールは「フィアナ騎士団」の団長として活躍し怪物退治なども行いますが、騎士団員のひとりディルムッドが妻となる女性グラーニャと駆け落ちしてしまうという物語でも知られています。ここでも「婦人の守って欲しいという願いを断れない」というディルムッドの「誓約(ゲッシュ)」が重要な要素となってくるのですが、これらは中世ヨーロッパの騎士たちが行ったとされる「騎士の誓い」に通じるところがあり、また「裏切り」の下りは「アーサー王」の物語とも共通する要素になっています。

ローマの滅亡以降、ギリシャ・ローマの古典文化復興を謳った「ルネサンス」までの間を「暗黒時代」と呼ぶことがあります。キリスト教伝播とともにかつての文化遺産が失われたりしたことで「歴史が失われた」という意味もあったのですが、現在はあまり使われない言葉となっているようです。しかしヨーロッパ全域の文化が大きく変化した時代があったことは確かですし、その頃に古い神話がキリスト教文化に合わせて変化していったことは間違いありません。