2016 March 18真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
補遺編1 クレオパトラとエジプト文明
こんにちは、ライターの塩田信之です。『真・女神転生IV FINAL』発売前の情報公開と合わせて悪魔たちの登場する神話についても思い出してもらい、ゲームプレイに備えてもらおうということで始まった当神話コラムも、ゲーム発売とともに無事最終回を迎えました。その後ありがたいことにリクエストの声などもいただきまして、新たに発表されたDLCに合わせた追加分を行うこととなりました。2回分ではありますが、またお付き合いいただければ幸いです。
補遺編1 クレオパトラとエジプト文明
「絶世の美女」クレオパトラ
日本で「クレオパトラ」といえば、中国唐代に「傾国の美女」と謳われた「楊貴妃」や、恋愛の歌で知られる平安時代の女流歌人「小野小町」とともに「世界三大美女」と呼ばれ広く知られています。とはいえ、いくら「絶世の美女」と言われても、もちろん写真などあるはずもない大昔の女性たちですから、絵画なども後世に想像で描かれたもので、実際にどれだけ美しかったのかはわかりません。
そもそも「三大美女」などと呼んでいるのも日本くらいで、小野小町が世界的に有名とは思えませんし、世界的に見ればギリシア神話でトロイア戦争の原因となった「ヘレネ」はないかと言われたりもするようですが、そこまでいくと実在したかどうかも疑わしいので三大美女という言い方自体もナンセンスと思えてきます。
そんなクレオパトラの存在が日本で浸透したのは、戦後の高度成長期に「娯楽の王様」と呼ばれた映画の存在が大きかったのではないでしょうか。当時ハリウッドには「歴史大作」とか「スペクタクル史劇」のブームがあって、衣装などにお金をかけた上映時間も長い映画が数多く作られていました。1963年には当時世界でもっとも有名な女優エリザベス・テイラーが主演した『クレオパトラ』という4時間を超える総上映時間の大作が公開されています。当時1ドルが日本円で360円という今では信じられない円安だったのですが、この映画は当時の金額で16億円近い製作費がかかったとされていて、映画会社(20世紀フォックス)が倒産しかけたということでも話題になりました。
実際には会社が期待したほどのヒットにならなかったものの、それはもう絢爛豪華で見た者に強い印象を残す作品ではあったので、エキゾチックな衣装や頭飾りをつけた美女クレオパトラのイメージはこの作品などにルーツを求められるのではないかと思われます。
クレオパトラの物語は、ローマ帝国時代に書かれたプルタルコス(プルターク)の『英雄伝(対比列伝)』がまずあって、それをもとにシェイクスピアが書いた『アントニーとクレオパトラ』がよく知られています。先に挙げた映画もそうですが、ローマに支配されることになったエジプトにやってきたカエサルの前に絨毯に巻かれ届けられたエピソードや、最期の毒蛇に咬まれて自殺するところなど文学的あるいは映画で見せ場となるようなシーンは、クレオパトラの死の百数十年後には文書としてあったということになります。もっともプルタルコスは『英雄伝』を歴史書として執筆したわけではなく、クレオパトラについても「比類ないというほどの美人ではない」としていますが、プルタルコスが生まれた時点でクレオパトラの死後120年近くが経過しているわけですから、実際に見ていたわけではありません。