真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 November 27真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第6回 ミロクと仏教の救済思想

56億7000万年後にすべてを救済する弥勒菩薩

そんな仏教の救済思想の最終兵器とでも呼べそうな存在が、「弥勒菩薩」です。この菩薩は現在いるわけではなくて、はるかな未来、一説には56億7000万年先に到来すると予言された存在です。さまざまな菩薩や如来によって救済されなかった、すべての魂を救済して解脱どころか仏にしてくれます。
 どこかキリスト教における『ヨハネの黙示録』に通じる部分があるこの考え方は、仏教誕生以前からインドにあった神を原形に、大乗仏教が発展させていったものと思われます。弥勒はインドで「マイトレーヤ」と呼ばれていますが、元を辿っていくと「ミトラ」あるいは「ミスラ」と呼ばれる神に行き当たります。
 ミトラあるいはミスラは、インドやペルシアで非常に古くから信仰されていた神で、インドではバラモン教最初期の経典『リグ・ヴェーダ』に、ペルシアでもゾロアスター教の経典『アヴェスター』に名前があって、ともに善なる神々の中心的存在となっていることから、さらに古い時代の共通した神であったことが窺えます。正確な起源はわかりませんが、名前が「契約」「友人」を意味することから、インダス文明時代にまでも遡って交易を通じてインド・ペルシアに限らず広く信仰されていた神であったとも考えられています。そういう意味では、原形をオリエント神話に求めることも可能で、「契約の神」という側面はユダヤ教を起源とする唯一神とも共通する興味深い要素です。
 ミトラを信仰する宗教は西暦の紀元前後に強い勢力に発展していたと見られ、ローマでも「ミトラス教」として初期のキリスト教と争うほどの一大勢力でした。

ところで、唯一神も信じる者を「救済」するわけですが、やはり救済対象を拡大していくことで宗教として発展してきた歴史があります。
 当初ユダヤ民族の「契約の神」だった唯一神は、ユダヤ民族のみを救済する神でした。イエス・キリストは、この救済対象をすべての民に変える宗教改革を行ったわけです。そういう意味では、イエス・キリストは仏陀と近い立場にあると言うことができます。キリスト教の一部には後に「アーメンと唱えるだけで救われる」といった考え方も生まれるあたり、念仏を唱えるだけで救済される仏教と同じような発展を遂げてきたと言えるわけです。
 基本的に「輪廻」の思想がない唯一神教では、人は死ぬと生前の行いによって地獄か天国に行くことになっています。ただし考え方にもよるのですが、死んですぐに天国に行けるわけではなく、地獄に落ちなかったものは眠りについて救済を待つともされています。
 ここで登場するのが、『ヨハネの黙示録』です。世界の終わりにハルマゲドンと呼ばれる神と悪魔の最終戦争が起こるのですが、この後に起こる「死者がよみがえる」現象が実は神による救済です。信者だけがよみがえって、新たな世界である楽園に暮らすことができるというのがこのお話の骨子になるわけです。
「ヨハネの黙示録」がいつ成立したのかはさまざまな議論がありますが、その原形はイエス・キリストの磔刑後比較的早い時期だったとも考えられていて、イエス・キリストの復活とともに「審判の日」が来るという形で初期キリスト教の布教において中核的な考え方だったのではないかと思われます。「起き上がる死者」のイメージは、ゾンビ映画の流行のせいか「世界に死人が闊歩する地獄絵図」という風に誤解されやすいのは現代ならではの現象かもしれません。

キリスト教における「ヨハネの黙示録」の成立と、仏教における「大乗仏教に基づいた弥勒菩薩」像は、歴史的にはほとんど同じ頃に成立していたのではないかと思われる点は、その類似点・相違点を検証する上でも面白い要素と言えるでしょう。