真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 December 11真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第8回 スクナヒコナとヤマト政権神話

こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。


第8回 スクナヒコナとヤマト政権神話

マンガで親しむ『日本神話』

今回は、のっけから「マンガの話」でいくことにしましょう。というのも、当コラムの筆者であるところの私・塩田信之がマンガ好きで、そもそもが神話に興味を持つようになったのもマンガがきっかけでしたし、今回とりあげるスクナヒコナと関係の深いオオクニヌシをよく知る機会となったのもマンガ作品だったからです。

テレビアニメ『機動戦士ガンダム』を初回放送(1979年)から再放送や劇場版公開時(1981~1982年)に好んで見ていた人たちを「ファーストガンダム世代」などと呼んだりすることがありますが、私もそこに含まれるひとりです。そんな世代の多くの人が当時そうしていたように、私もキャラクターデザインを担当された安彦良和氏の画集を買ったり模写をしたりしていたものでした。そんな安彦氏が雑誌『リュウ』(徳間書店)にギリシア神話を題材としたマンガ『アリオン』を連載(1979~1984年)したことはギリシア神話をより深く知るきっかけになりましたが、さらに大きなインパクトを持って日本の神話への興味をかき立ててくれたのが、描き下ろし単行本シリーズとして徳間書店より発行された『ナムジ』(1989~1991年)でした。
 もちろん、それまでにも日本神話を扱った素晴らしいマンガ作品は手塚治虫氏の『火の鳥』諸星大二郎氏の『暗黒神話』星野之宣氏の『ヤマトの火』などありましたが、当時は大して知りもしなかったオオクニヌシを主人公とした『ナムジ』は、学校では歴史の授業でちらっと触れたくらいだった『古事記』と『日本書紀』に記されている神話時代そのものに強い興味を持たせてくれたのです。九州の吉野ヶ里遺跡が話題となり、邪馬台国ブームが再燃した後のタイミングということもあって、星野氏の『ヤマトの火』のリメイク作『ヤマタイカ』(1986~1991年)、藤原カムイ氏の『雷火』(1987~1997年)とともに当時熱中して読んだものでした。

『ナムジ』は、後にオオクニヌシと呼ばれ神とされた人間ナムジ(オオナムジ)の青年時代を描いた作品で、『古事記』や『日本書紀』の記述やその元になったと考えられる『出雲国風土記』におけるオオクニヌシ神話を、安彦氏ならではの感性で解釈してマンガというエンターテインメント作品に仕上げたものです。出自のはっきりしないところを、韓国(からくに)の難破船から流れ着いた子供として、当初出雲の鉱山で奴隷同然に働かされていたところ出雲の大王スサノオの娘スセリに見初められ婿として支配者一族に入ることになり、女王・日霊女(ヒミコ)が治める邪馬台国との戦争に参加したり、自然災害の多い出雲の治水工事を行うなどして民衆を率いる存在に成長していく姿を描いています。
 安彦氏本人があとがきに記していますが、『ナムジ』をはじめとする記紀神話を題材とした作品における神話の歴史的解釈は1970年代後半に『古代日本正史』や『上代日本正史』といった著書を発表し考古学界隈で話題となった原田常治氏という出版人の考え方を基礎にしています。アマテラスやスサノオをはじめとする日本神話の神々の出自や神話上のエピソードは後に改変されたものとして、各地の神社を調査した上で独自の古代日本社会像を作り上げらたもので、安彦氏はさらに各人のキャラクター性や心情的要素を含めた物語としての大幅な補完を行うことで、面白いマンガ作品にまとめあげています。作中には神話や古代史について解説する部分も豊富ですが、この作品以前に『アリオン』があったことを踏まえ、ギリシア神話と日本神話の類似性についても触れているなど、神話に関する読み物としても楽しめる作品になっています。