2015 December 11真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第8回 スクナヒコナとヤマト政権神話
天津神なのか国津神なのか
スクナヒコナは、出自としては天津神の領域に属します。『古事記』や『日本書紀』ではカミムスビあるいはタカミムスビという、イザナギとイザナミよりも前から存在した神の子とされています。同一視されているヒルコもイザナギとイザナミの子なのですから、国津神とするよりは天津神としたほうがいいように思えます。
しかし、カミムスビの子とする『古事記』の解釈については、高天原を追放されたスサノオが訪ねて食料を求めたオオゲツヒメが殺された際に生まれた粟をカミムスビが取り上げそれがスクナヒコナになったという考え方もあり、高天原由来ではない国津神としての属性も付与できます。オオゲツヒメには国産み神話の際にイザナギとイザナミの間に生まれたという『古事記』の記述がありますが、殺されてさまざまな穀物を産む地母神としての性格が強く、元々東南アジア由来の神話だったものが日本の神話に取り込まれたものと考えられています。
また、ヒルコの場合は国産み神話の中で正しい子作り方法を知らなかったイザナギとイザナミの間に生まれ、正常な子供ではないとされて葦の舟で流されてしまったので高天原に属さないともいえます。こうした考え方から、スクナヒコナはどちらかといえば反高天原的で、天孫降臨以前から葦原の中つ国にいた国津神と分類されます。高天原を追われたスサノオや、『日本書紀』ではスサノオの子とされるオオクニヌシが国津神に分類されるのと同様といっていいでしょう。
その後の「天孫降臨」で「国譲り」が行われ、日本は天津神が地上に下って作った「大和朝廷」の支配される形に変わっていきます。元々日本の各地の支配者だった国津神たちは、オオクニヌシに習って恭順を示すか、抵抗して「まつろわぬ(従わない)者」と呼ばれるようになるかを選択することになります。もっとも、反抗したものも「神武東征」や「ヤマトタケルの東征」などによって平定されていくことになります。『古事記』や『日本書紀』は大和朝廷の支配が確立された後に、天津神の係累とされる天皇の意向によって編纂された「歴史書」です。「歴史は勝者によって作られる」などとよく言われますが、『古事記』も『日本書紀』も大和朝廷に都合のいい形で編纂されているのは明らかなので、実際の歴史がどうだったのかははっきりとはわかりません。ただ、『日本書紀』よりも情報が元になっているとされる『古事記』に原形に近い記録があると考えられたり、各地の風土記には朝廷の影響が少ない古来の形が窺えるのではないかとは昔からよくいわれています。確実な情報がない分、国津神が実際にはどんな存在だったのかは想像の翼を大いに広げられる領域ともいえ、『ナムジ』のような作品も史実がどうであったのかこだわらず「古代ロマン」として楽しむことができるというわけです。
次回は、天津神もそうですが日本に渡来した神々のルーツを辿るということで、「トウテツと中国神話」をお送りする予定です。お楽しみに。
塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)
故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。