真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

TOPICS

2015 December 18真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第9回 トウテツと中国神話

こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。


第9回 トウテツと中国神話

トウテツという「怪物」

ラーメンのどんぶりに、四角い渦巻き模様みたいなものが円状に並んでいるのを見たことがある人は多いのではないかと思います。あれは「雷文(らいもん)」と呼ばれる古代中国から使われている伝統的な模様で、少なくとも紀元前3000年くらいには土器の装飾として使われていたことが確認されています。当時の中国にはすでに黄河、長江、遼河といった大河の流域に文明が育っていて、メソポタミア、エジプト、インダスに並ぶ世界四大文明のひとつでした。
 そんな中国の古代文明の中でもっとも初期に発見された黄河文明にその例は多く見られ、青銅器の装飾として受け継がれていったことは、紀元前17世紀ごろから紀元前10世紀ごろに栄えた商王朝の「殷(いん)」と呼ばれる遺跡の出土品などで確認できます。今でこそ中国古代文明は数多く存在したことが発掘調査からわかってきましたが、ちょっと前までは中国の世界四大文明といえば黄河文明、黄河文明の代表的な遺跡といえば殷と認識されていて歴史の教科書にもよく載っていましたから、名前に見覚え・聞き覚えがある人も多いのではないでしょうか。

殷に代表される中国の遺跡で発見された青銅器によく見られる模様のひとつが、「トウテツ文」と呼ばれるものです。漢字で書くと「饕餮」というとても難しい字になってしまいますので、ここではメガテンにおける悪魔名「トウテツ」に倣ってカタカナで表記することにします。
 トウテツ文は「鼎(かなえ)」と呼ばれる基本的に三本の足が生えた鍋状の器の側面に浮き彫りにされることが多く、雷文を複雑化したような幾何学模様の組み合わせが、目鼻や角を思わせる{左右対称}の配置になっていることから、トウテツと呼ばれる怪物の姿を表したものとされています。もっともこの時代はまだいわゆる「漢字」が使われる前の段階にあって、動物の骨やカメの甲羅による占いで刻まれた「甲骨文字」と呼ばれる絵文字にも近い漢字の原型はあったのですが、使用者や用いられる場面が限定的でトウテツ文の由来のわかるような記述は見られないようです。
 そんなトウテツ文が怪物トウテツをかたどっているものと認識されるのは後代からで、紀元前3世紀ごろ始皇帝が戦国時代を終わらせて統一国家「秦」を建てた頃の『呂氏春秋』という書物には鼎に記されたトウテツは胴体のない首だけの怪物で、強力な毒を持つと書かれています。トウテツ文と呼ばれるようになるのはさらに時代が下った宋代(10世紀~13世紀)のことらしいので、トウテツ文は確かに見た目が不気味で恐ろしい怪物のようには見えるのですが、『呂氏春秋』の記述は鼎の見た目からのイメージが強く、元の鼎自体がトウテツをかたどったものといえるのかは疑わしい気がしてきます。

トウテツという怪物そのものについては、紀元前5世紀に活躍した孔子が書いたとされる『春秋左氏伝(一般的には『左伝』と略されます)』にあって、羊の体に人の顔を持つ一種のキメラで、「四凶」という神話上の悪神の一柱とされています。メガテンにはこの伝承に基づいた羊に似た邪神としてよく登場していますね。
 しかしながら、始皇帝以前の戦国時代から編纂が始まったとされる古代中国のモンスター図鑑『山海経(せんがいきょう)』にトウテツの名は見られず、本当に古くから語られていたモンスターなのか疑問があるのも事実です。『左伝』の羊型モンスターは『山海経』にもいて、「ホウキョウ」の名で記されています。トウテツは名前が似ていて『山海経』にも載っているトウコツという虎に似たモンスターと同一視されることも多いのですが、『左伝』によればトウコツも「四凶」の一柱なので一緒にされると「三凶」になってしまいそれはそれで不都合に感じられます。
 そもそものトウテツ文についても、一般的な見方である「正面顔」ではなく左右から横顔が向き合った動物の顔とする考え方もあって、実際同時期の青銅器に見られるほかの文様には龍が左右から向き合った図も多く、トウテツと思われる模様のバリエーションにも龍のように体が長いものが向き合ったものも見られるため信憑性は高いとされています。その上で、商を滅ぼした周の時代に作られた青銅器などに見られる図像と比較してトウテツ文のモデルは王の下で働いたシャーマン的術者が使役した虎かそれに近い動物だったのではないかとする見方が近年強くなっています。虎に似た動物ということになると、先に挙げた『山海経』のトウコツが思い起こされますが、トウテツ文が祭事用の青銅器に多く施されていることにも納得できそうです。

1218