真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 January 22真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第13回 イナンナとオリエント神話

またイナンナは戦いの女神としても信仰されていて、冥界下り譚にも冥界を手に入れようという意図があったという見方があります。戦う王に神の力を与える存在として信仰されていたことは、勇猛なギルガメシュに惚れて求婚した姿とも関連づけできます。
 像やレリーフに見ることのできるイナンナの姿は天使のように羽を持った姿をしており、アフロディーテがそうだったように明けの明星/宵の明星である金星とも関連付けられています。こうした特徴からは、天使というよりもむしろ悪魔、それもルシファーを想起させます。
 ローマから見てやはりオリエントの現在のシリアあたりにあった古代の都市国家ウガリットの遺跡にはオリエント神話からの影響が強い神話文献の粘土板が発見されているのですが、その主神である豊穣の神バアルには死の神モトとの争いにより冥界で死亡し、妹で美の女神でもあるアナトの働きによって復活する冥界下り神話があります。バアルは『旧約聖書』に邪教の神として登場したため後に悪魔バエルやベルゼブブになったともいわれていますし、イシュタルと同一視されるアナトにはアシェラトという異名があったともされており、オリエント神話とキリスト教文化の根深い関係性を窺うことができます。
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 さてイナンナといえば、メガテンファンの中には『真・女神転生デビルサマナー』を思い出す方もいるのではないでしょうか。古代日本にあった王国のひとつにイナルナという姫がいたのですが、大和朝廷に逆らったため討伐されたという架空の歴史があったということになっていました。その歴史や人物像は『真・女神転生デビルサマナー』オリジナルのものですが、イナルナの設定ベースはイナンナをモデルにしています。「まつろわぬ存在」であったがゆえに討伐され、歴史から抹消されたイナルナには今作にも通じるテーマが含まれていますから、今こそ再び手に取ってみるのもいいかもしれません。

次回は「アドラメレクと邪教の魔神たち」と題して、バアルやイシュタルといった存在が悪魔と考えられるようになった経緯について見ていくことにしましょう。お楽しみに。



塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。