真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 February 12真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第16回 シェーシャと世界竜神話

こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。


第16回 シェーシャと世界竜神話

ドラゴンの類いの分類について

私たちのようにゲームを、特にRPGの類いを好む者にとって、「ドラゴン」はもはや馴染みある存在です。近年はファンタジーものの映画やアニメ作品も多く、特にゲーム好きではない一般層にもその存在はかなり知られるようになりました。「ドラゴン」といえば、長い首と翼を持つ恐竜にも似た生物が思い浮かべられ、口から炎を吐くものという認識もずいぶん浸透しているように思われます。

もっとも、『メガテン』シリーズ好きにとっては必ずしもそうとは限らないのではないでしょうか。『メガテン』に登場する悪魔には当初から「龍神」「龍王」「邪龍」という種族分類があって、それらをまとめて「龍族」と呼んでいます。世界各地に伝わる神話や伝説上のドラゴンに近い存在がこれに分類されますが、その多くは「翼を持った恐竜」的な外見ではありませんでした。

大雑把にこれらドラゴン的な存在を分類すると、まず蛇に近いものと、トカゲやワニに近いものにわけられます。『メガテン』シリーズに出てくる代表的なものを挙げるなら、「ヤマタノオロチ」は頭の多数ある蛇で、「ペンドラゴン」はトカゲに近い一般的な「ドラゴン」的なイメージと言えます。足があればトカゲ型というわけでもなくて、「セイリュウ」のように蛇状の体に小さな足があるような場合も蛇型に分類します。

蛇状のものを「東洋的」、トカゲ状のものを「西洋的」なドラゴンと呼んだりすることがあって、先に挙げたヤマタノオロチやセイリュウが東洋の日本と中国に伝わる存在であることや、ペンドラゴンが西洋の伝説に伝わってきたことを考えればあながち間違いとは言えません。ですが、そう分けて考えると中東のシュメールやバビロニア起源の神話に登場するものの立ち位置が微妙になりますし、西洋にも蛇型のものが少なからず伝わっているので齟齬は生じてしまいます。ここでは「東洋的」「西洋的」とは呼ばないことにして、また文章が煩雑になることを避ける意味で、蛇型のものは「龍」、トカゲ型のものを「ドラゴン」と呼んで、全体を「竜」とまとめることにします。

「竜」たちの伝説は世界各地にありますが、その多くは原型的なイメージを蛇に求めることが可能でしょう。もちろんトカゲやワニを原型に生まれたものもいるのでしょうが、世界各地で蛇ほどには身近ではなかったはずです。また、神話上の龍の類いは河川や雷光など自然の脅威の神格化とされることも多いのですが、どちらの場合も基本的には蛇状の形態をより想像しやすいと言えます。

トカゲ型のドラゴンは、「第14回 アドラメレクと邪教の魔神たち」に書いた悪魔と同じように、キリスト教文化の中で発達していったものと思われます。イヴを誘惑して「知恵の実」を食べさせた蛇は悪魔の化身と考えられ、『旧約聖書』の「イザヤ書」で神が戦ったとされている「リヴァイアサン(レビヤタン)」は悪魔の代名詞のひとつにもなりました。中世期にキリスト教の聖人伝説とヨーロッパの騎士物語が結びついて、「聖ゲオルギウス」に代表される「ドラゴン退治伝説」が民衆に好まれるようになります。当時の大衆娯楽といえば芝居小屋クラスの演劇が多かったでしょうし、舞台上で再現する上ではトカゲ型のドラゴンが精一杯だったと考えられます。中世期はヨーロッパのあちこちがヴァイキングの襲撃を受けていましたが、ヴァイキングはキリスト教と対立関係にあって悪魔と呼ばれていましたし、舳先が竜の頭に似た船も使っていたためドラゴンと同一視して恐れられていたこともそうした伝説のリアリティに繋がったようです。