2016 February 12真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第16回 シェーシャと世界竜神話
本当の「古代インドの宇宙観」
それでは、インド神話における宇宙観が実際にはどんなものだったのを見てみることにしましょう。
インド神話が時代によって変遷を遂げてきたことについては「第3回 クリシュナとインド神話」にも書きましたが、「インダス文明」の頃にはその原型があったと思われる「バラモン教」の聖典とされる『リグ・ヴェーダ』に代表される「ヴェーダ文献群」が現存するもっとも古い神話となります。そこにはいくつかの異なる創世神話が書かれていて、そのひとつは「プルシャ」と呼ばれる原初の人間が神々に捧げられる犠牲となり、その死体から世界と神々が生まれるという物語になっています。中国の盤古によく似ているのですが、これはインドから伝わったプルシャ神話を真似て作られたのが盤古神話と考えられることが一般的です。
ほかに、「ヒラニヤ・ガルバ(意味としては「黄金の胎児」となる)」から創造神が生まれるという神話と、「ブラフマナスパティ(祈祷主)」あるいは「ヴィシュヴァカルマン(一切の創造主)」と呼ばれる神が世界を創造したという神話があります。
第3回にも書いた通り、インドではバラモン教が弱体化し仏教が主流となった時代を経たのち、バラモン教の思想を受け継いだ「ヒンドゥー教」が復活します。ヒンドゥー教の成立には仏教における「大乗仏教」の思想が生まれたことが関係しているとされ、大乗仏教が「厳し修行などを必要とせずに大衆を救う教え」であるのと同じように、ヒンドゥー教も「バラモンを救う教えではなく大衆を救う教え」として成立したものと考えられます。この大規模な宗教改革の中には、数多くの神々が存在する「多神教」から「ヴィシュヌを唯一神と捉える一神教」への転換も含まれていました。先に挙げた「ヴィシュヴァカルマン」も、ヒンドゥー教の中でヴィシュヌ信仰に集約されていくことになります。
ヒンドゥー教は「ヴィシュヌ」、「ブラフマー」、「シヴァ」がそれぞれ主神であると言われていますが、これは「それぞれを主神とする一神教的な派閥がある」と言い換えることもできます。ブラフマーの場合はほとんどヴィシュヌに吸収された状態ですが、ヴィシュヌ派とシヴァ派は互いに「相手は我が主神のアヴァターラ(化身)」だと主張していたりします。また他にもシヴァの息子とされる「ガネーシャ」を崇める勢力も大きかったり、化身のひとつとしてヴィシュヌ派に取り込まれつつも有力派閥となっている「クリシュナ」の存在もあるので一概には言えないのですが、基本的には「ヴィシュヌ派」と「シヴァ派」がヒンドゥー教の二大派閥とされています。
ヒンドゥー教となって以降の聖典として重視されているのは「プラーナ文献」と呼ばれる書物群ですが、「シェーシャ」はヴィシュヌ派の重要文献である『ヴィシュヌ・プラーナ』にその存在が詳しく語られています。インドには古くから「ナーガ族」という地下世界に住む蛇神たちがいて、シェーシャもナーガ族の王「ナーガラージャ」のひとりと考えられていますが、基本的にはヴィシュヌと対の状態で知られています。