真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 October 30真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第2回 ダグザとケルト神話

英雄たちが主役となる「アイルランド神話」

時代や地域によって違いがあって、同じ「ケルト文化」にもさまざまな変化があります。これは神話についても同様で、地域が違えば同じ神々が「共通設定」のようにいたとしても、物語の「主要人物」となる神々はまったく異なることになります。これは、神話として残されている物語が過去に実在した偉大な祖先の活躍ぶりの言い伝えとして成立しているからと考えられます。英雄譚が後世に伝わっていく過程で誇張されていくことは、なんら不思議なことではありません。
 実際ケルト人は部族単位の独立心が強く、部族同士は対立していることも珍しくありませんでした。部族ごとに「王」にあたる統治者がいて、つまらない理由で戦争になることがあったことは神話にも描かれています。となれば、部族の祖先にあたる英雄が強いことは部族の威光にも繋がりますから物語は誇張されて当然といえます。
 クー・フーリンはアイルランドの北部にあったアルスター王国の英雄で、南西に位置するコナハト王国との戦争での活躍が描かれています。アイルランド神話における太陽神ルーの子とされ、超人的な力を持っており女神スカアハより授けられたゲイボルグを持つことで知られていますが、親友や息子を手にかけたり自身もゲイボルグに貫かれ命を落とすなど英雄に似つかわしくないともいえる物語になっており、現実にあった出来事を元にしたと思わせるリアリティが感じられます。

ここまでクー・フーリンを中心にケルト神話がどのように成立してきたかについて考えてみましたが、今回のコラムの命題としている「ダグザ」とは何者でしょう。
 アイルランド神話には、「トゥアハ・デ・ダナーン」あるいは「ダーナ神族」と呼ばれる神の一族が登場します。これは女神ダヌーの子供たちである神々のことで、ダグザはその最高神とされる存在です。女神ダヌーは母親で妻でもあるとされ、名前は「良い神」を意味します。無限に食料を生み出すことのできる神の道具として「大釜」を持っているため豊穣を司る神とされますが、死と再生を司るともいわれ、『真・女神転生IV FINAL』で死んだ主人公を甦らせる立場となるのはそこからきています。
 英雄たちの活躍が主体となるアイルランド神話において、ダグザは最高神という立場ではあってもさほど活躍する存在ではありません。それどころか、アイルランドの先住者であるフォモール族(『メガテン』シリーズでは「フォーモリア」でおなじみ)との戦いにおいて傷つき、表舞台から退いて隠遁生活を送る立場となってしまいます。フォモール族との戦いを勝利に導くのは神々の王としての立場を引き継いだ兄弟神ヌアザで、豊穣神としての特性は娘である女神ブリジットに受け継がれることになります。ケルト社会で行われていた春の祭「インボルクの祭」の行われた2月1日はアイルランドの守護聖人である聖ブリジットの祝日とされているのですが、これはキリスト教布教の際にブリジットを守護聖人として取り込むことでその人気を利用したことに始まっているのですから、アイルランドがキリスト教化された後もその人気が衰えなかったということになります。
 こうしてみると、ダグザは最高神とされる立場でありながら不幸な境遇にあって、自身の失地回復を狙っているようにも思えます。娘を利用した唯一神と対立する立場となることもそれで理解できそうですが、ゲーム中のダグザがなにを目的に主人公を甦らせたのかは今のところ明らかとはなっていません。神話から想像してみるとこんなことも考えられる、というひとつの例に過ぎませんが、こうした想像を働かせることができるのも、『メガテン』ならではの面白さのひとつなのです。
 さて次回は、多神教連合の中心的存在であるクリシュナとインド神話について掘り下げてみたいと思います。お楽しみに。

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塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。