真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

TOPICS

2015 November 06真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第3回 クリシュナとインド神話

仏教とヒンドゥー教再生、そしてクリシュナ

バラモン教時代の途中で、「仏教」が誕生します。お釈迦さまことガウタマ・シッダールタは、バラモン教の根底にある身分制度(「カースト制度」と呼ばれていましたが、現在は「ヴァルナ制度」と呼ばれることも多いようです)に疑問を感じ、身分に拠らない衆生の救済を仏教で唱えました。
 仏教が始まった紀元前500年ごろから、西暦が始まって7世紀くらいまでの間は、バラモン教が弱体化し、仏教やジャイナ教といった勢力が優勢でした。インド一帯も、力を持った王朝による中央集権国家としての安定的な時代が続いていたこともそうした状況を醸成させたものと思われます。6世紀ごろからフン族の侵入が始まり、グプタ朝が倒れると小国の乱立するいってみれば戦国時代に突入することになって仏教が衰退し、ヒンドゥー教が盛り返してくることになります。ちなみに、『西遊記』の元になった玄奘三蔵の西天取教の旅は、仏教が弱まっていく最中の西暦629年から645年に行われています。旅の記録として『大唐西域記』が書かれ、それを元に10世紀ごろには『西遊記』の元になった脚色等の加えられた写本などが作られたものと思われます。

バラモン教を継承したヒンドゥー教は、ヴィシュヌ信仰を中心としたいってみれば「新興宗教」として始まったと考えられます。それは「宗教改革」でもあったわけですが、ヴェーダ文献からマヌ法典までを下敷きにした上で、2世紀以降キリスト教が世界的に強い勢力となっていく傾向にも影響を受けた、ヴィシュヌを唯一神に見立てる「一神教化」の考え方もあったのではないかと思われます。
 ヒンドゥー教ではヴェーダ文献の他に、『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』といった叙事詩を聖典として重視するようになりました。『マハーバーラタ』は古代の北インドにいたバラタ族の5人の王子たちが戦った民族紛争を物語の中心としていて、紀元前2世紀ごろには原形ができていたようです。これが聖典として重要視されるようになったのは、後に物語の途中に挿入された『バガヴァット・ギーター』と呼ばれる部分の存在があったからで、この部分自体その後のヒンドゥー教ではもっとも重要な聖典のひとつとなりました。
 この『バガヴァット・ギーター』に登場するのがクリシュナです。5人の王子の中心人物であるアルジュナ王子の戦車に御者として乗っているのですが、御者という身分でありながら王子にヴィシュヌ信仰のあり方を教える立場として登場しています。
 実は、クリシュナは実在の人物がモデルになっていて、当時宗教改革の中心人物だった新興勢力バーガヴァタ派の族長です。その派閥のヴィシュヌ信仰の要旨をまとめたのが『バガヴァット・ギーター』で、2世紀ごろに成立した新板『マハーバーラタ』に追加されたものというわけです。
 かくしてバーガヴァタ派は大勢力となり、族長を物語の登場人物化させたクリシュナは、ヴィシュヌのアヴァターラ(化身)のひとつに認められる運びとなります。よくよく考えると、ヴィシュヌ自身が姿を変えて「私を信仰しなさい」と言ったということになるのですが、神話上よくあることなので気にすることでもありません。