真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 December 04真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第7回 オーディンとゲルマンの神々

戦いの神でもある魔術師

ゲルマン人はとても戦闘的な性格で、常に狩猟と戦争のことばかり考えていた、と『ガリア戦記』に書かれていますが、古代の社会を考えてみればそれも当然でしょう。ゲルマン人は定住を嫌い、移動を繰り返しながら戦いで生活の場と食料を得ていたと考えられます。
 そんなゲルマン人が信仰したもっとも重要な神がオーディンであったというのは、オーディンの持つ特質を見ていくと合点がいくと思います。オーディンは非常に多くの超常的能力を持ちますが、そのうちのひとつが瞬間移動能力です。どんなに遠くでも一瞬にして移動ができますし、さまざまな生き物に変身する能力も持っているので例えば鳥になって飛ぶこともできます。また天候を操る力も持っていて風向きを変えることができたり、紙か布のように折りたたんで携帯できるスキズブラズニルという船を持っているので海も自在に渡ることができます。こうした能力は転々と各地を移動してきたゲルマン人にとってまさしく「神の力」と言えます。古代ローマでメルクリウスと同一視された経緯にも、メルクリウスが商人や旅人の守護神とされていたことが一因として挙げられます。

オーディンは知恵の神でもあって、さまざまな魔術を使えるだけでなく、いわゆる「ルーン文字」を発見した存在ともされています。ルーン文字は、例えばエジプトのヒエログリフや、そこから発展してヨーロッパ圏に伝わったフェニキア文字と比べて後代に作られた文字で、神話上オーディンに関連付けられたのも後になってからと考えられます。ギリシア神話で人間に文字を教えたのはヘルメスで、ローマのメルクリウスはヘルメスとも同一視されていました。ヘルメス・メルクリウスはエジプトの知恵の神トトや、錬金術の始祖とされるヘルメス・トリスメギストスという伝説的人物とも関連付けられていますから、魔術師のオーディンと比較したくなるのも当然のことでしょう。

次に戦いの神としての側面ですが、グングニルの槍を持つものの、オーディン自身はあまり戦いには参加しません。戦いの現場に現れて魔法を敵や味方の軍勢に使うこともありますが、基本的には戦いに参加する戦士の守護神として崇められています。
 よく知られているのは、英雄的な戦死者をオーディン自身の館ともされる「ヴァルハラ」に招くことでしょう。オーディンの娘も含むヴァルキリーと呼ばれる女神あるいは天使のような女性たちを戦場に派遣し、招くべき戦士を選ばせヴァルハラまで連れてこさせます。ヴァルハラに招かれた戦士たちはエインヘリャルと呼ばれ、館で毎日戦いと饗宴を繰り返しながら神々の戦う最終戦争「ラグナロク」を待つことになるのです。
 死んだ後も戦い続けるというのは現代的な視点では「地獄」のように見えるかもしれません。ヴァルハラはさまざまな神話に描かれる冥界とは異なるものですが、オーディンに冥界の神としての性格が含まれているのも確かです。しかし同時にヴァルキリーは饗宴の席でエインヘリャルに酌をするなどの歓待役でもあって、毎晩どんちゃん騒ぎが行われるというところはある種の「楽園」としてのイメージに繋がります。どちらにしても、戦いに赴く戦士たちに「死んでヴァルハラに行く」という目的を与えて奮闘させるという役割には充分な設定でしょう。こうして作り上げられたゲルマン戦士のイメージは、オーディンの力を受けて戦場で暴れ回るという「ベルセルク(狂戦士)」と呼ばれる存在にも通じ、いかにゲルマン人が勇猛であるかを物語ります。
 オーディンにはリヒャルト・ワーグナーによってオペラの題材ともなった叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公であるシグルズ(ジークフリード)などの英雄たちとも関係深い存在です。英雄たちの物語は必ずしもヴァルハラに招かれるところまで描かれるわけではありませんが、彼らのほとんどがエインヘリャルとなることは間違いのないところでしょう。