2016 January 08真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第11回 人類の誕生と神々の誕生
ひと組の男女から増えていく人類
日本人にとって、世界の最初の姿を描いた神話として次に親しみがあるのは、やはり日本の神話でしょう。イザナギとイザナミの兄妹が「天の沼矛(アメノヌボコ)」で海をかき混ぜて日本列島を生み出す様子は、大洪水を生き残ったふたりが水の引いた列島に降り立った姿を伝えているように思えます。実際、中国やインドネシアには洪水を生き延びた兄妹が夫婦となって子孫を成したという形の神話があちこちに残っていて、日本神話がそれらを参考に形成されたものと推測できます。
もっとも、日本神話の場合「人類誕生神話」ではなく、「国産みと神産みの神話」で、人類がどのように誕生したのかは語られていません。神話の最初の部分は神々の住む天上世界「高天原」を舞台に神々の誕生が描かれ、スサノオが高天原を追放されて出雲の地に降り立つとそこにはすでに国津神がいて、スサノオと大国主によって「国造り」が行われることになりますから、人間たちもすでにいたと考えられます。これは「天孫降臨」した外来の人々の視点で作られた神話ゆえの構造で、それ以前から日本に住んでいた人々にあった創世神話が残らなかったということでしょう。例えば、アイヌには先に生まれたカムイ(神)たちが動物や人間を創造するといった言い伝えがありますが、地域によって内容がバラバラな上、日本神話の影響を受けて似通った部分の目立つ神話になっています。
中国では第9回にも書いた通り地域やいわゆる「少数民族」によってさまざまに異なる神話があるのですが、上に記した通り日本神話の原形とも考えられるものがあります。そのひとつが、第9回でも触れた「フッキとジョカ」の神話です。このふたりは大洪水を生き延びた兄妹で夫婦となって子孫を作ることになるわけですが、この話自体も伝承によってさまざまなバージョンが存在します。
フッキとジョカはヘビの体を持つ神とされることも多いのですが、そうした伝承ではジョカは女神として人類を創造することになります。最初の内は、ひとつひとつ真面目に泥人形を作っていくのですが、面倒くさくなってくると一気に作ろうとして縄を泥に浸して引き上げると、飛び散った泥がそれぞれ人間になったという大雑把な創造になっています。最初の内にきちんと作ったものは高貴な人間になって、一気に作ったものは貧しい人間になったともいわれているあたり、現代の中国の格差社会が神話時代にまで遡れる含蓄ある神話です。
フッキとジョカが人間的に描かれた伝承では、洪水を生き延びたふたりの前に道教の最高神とされる玉皇大帝が現れて「夫婦になれ」と言われるのですが、「兄妹だからそれはできない」と固辞します。玉皇皇帝は自分で泥人形を作りはじめて兄妹に手伝わせるのですが、乾かしてる途中で雨がまた降り始めて、壊れたり欠けたりした人形ができてしまったそうです。ちょっとそこまでいわれると含蓄もなにもあったものではない気がしますが、儒教や道教の思想が入っていることからも窺える通り神話というよりも民間伝承として後に発展したものだから仕方のないところでしょう。