2016 January 15真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第12回 ナパイアと妖精伝説
こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。
第12回 ナパイアと妖精伝説
ギリシア神話の精霊たち
ナパイアは、ギリシア神話に登場する「ニンフ」と呼ばれる神的存在の一種です。「谷の精」などと呼ばれることもあるように、谷に暮らす精霊と考えられますが、神話上「ナパイア」が登場すること自体ほとんどないため詳しくはわかりません。「山の精」と呼ばれる「オレイアス」、川や泉などの「水の精」である「ナイアス」と同等の存在と考えられますが、山の中に谷があって、谷に川が流れていたりするわけで、あまり厳密な違いはなかったように思われます。
例えば、ナパイアではないかと思われる有名なニンフに「エウリュディケ」がいます。『ペルソナ3』の主人公のペルソナとしてご存じの方も多いと思われる詩と音楽の神オルフェウスの妻だった女性で、アリスタイオスというアポロンの息子である神に見初められ、追われて逃げるうちに蛇を踏んで咬まれ、死亡してしまいます。
これが、日本神話のイザナギが死んだ妻イザナミを求めて黄泉の国に向かう物語とよく似た「オルフェウスの冥界下り」の発端です。冥界の神ハデスの前まで行ったオルフェウスは竪琴を奏でることで妻を地上に連れ戻す許しを得ますが、地上に出るまで振り返って妻の姿を見てはならないという約束を守ることができず、エウリュディケは霧の精と化して冥界に戻ってしまいます。
エウリュディケはトラキアという現在のブルガリア辺りに住んでいたニンフですが、どんなニンフだったのかまではわかりません。川辺でアリスタイオスに見初められることから水の精ナイアスとされることもありますし、木の精ドリュアスとされることがもっとも多いようです。オウィディウスの『変身物語』(中村善也訳/岩波文庫)にオルフェウスの冥界下り譚「オルペウスとエウリュディケ」が収録されていますが、「新妻のエウリュディケ」と訳されているように「ニンフ」という古代ギリシャ語には「新婦」あるいは「花嫁」という意味があって神々や人間の王の妻はニンフとされていることが多いのです。
数多いニンフたちの中でも、ナパイアを含む山、谷、川などの精霊は特に古くから人々に信仰されていたものと思われます。同じように古いと考えられる「海の精」ネレイスたちは、海神ポセイドン以前に海を支配したネレウスの子とされています。50人もいたという姉妹で、中には英雄アキレスの母となるテティスや、ポセイドンの妻となるアムピトリテといった有名な存在もいます。
ナパイアは、古代ギリシア以前に栄えたミノア文明の頃に信仰されていたアイギーナ島の守護女神アパイアと関係があるとも考えられます。アパイアはブリトマルティスとも呼ばれた山の女神でしたが、ギリシアの狩猟の女神アルテミスに吸収される形で、山の精オレイアスになったと考えられています。
ニンフはみな美しい女性で、不死ではないが長い寿命を持つとされていて、ひどく惚れっぽい性格が共通するためさまざまな神々の妻となったり、人間との恋愛エピソードがたくさんあります。人間ではありませんが、女神としてはかなり格が低い存在で、神と人の間に位置する存在といえます。