真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 November 13真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第4回 神秘思想と悪魔サタン

エロティックな神秘体験とサタンの関係

ところで、最初に挙げた「聖女」たちの神秘体験を見てみると、「神との一体化」には多分にエロティックな表現が含まれています。誤解を招きやすい言い回しになりますが、修道女には「神と結婚」するため純潔を守らなければいけないといった通説があって、教義としては必ずしもそうではないのにエロティックな関係性と捉えられやすい傾向があります。実際のところ、神との「神秘体験」をした修道女自身にも、神との性的な関係を意識していた者は多かったようで、「体験記」にはあからさまな表現も目立ちます。高名な聖女である「イエズスのテレジア」にしても、『自叙伝』に記された「神との合一」は「神への愛」によってもたらされ、「宗教的な恍惚」と「歓喜」に包まれ、忘我状態に達するとしています。さすがにあからさまな表現はとっていませんが、一種のエクスタシー状態にあることは間違いなさそうです。

こうした背景には、中世期の修道院が厳しい禁欲を修行の一環としていたことがあって、誓いを破った者は男女を問わず厳しい罰を受けていていたようです。自戒と罰によって抑制された欲求が、幻覚や夢という形で「神秘体験」を作り出した可能性はありますし、ことによっては神経衰弱状態にある最中に神やその使徒を詐称した者に行われた行為を「神秘体験」と認識していたのかもしれません。

そんな話から連想されるのは、睡眠中の女性を襲って子を宿らせるという夢魔インキュバスです。対となる夢魔サキュバスに代表されるように、抑圧された修行者を誘惑する悪魔には女性型も多いのですが、インキュバスやサキュバスは下級悪魔とされていて、高位の女性聖職者の元には悪魔サタンがやってくるともいわれていました。

サタンという名称は『旧約聖書』から登場していますが、表現的には神やその契約者(信者)の行いを邪魔する存在の総称に近い扱いです。イスラム教でサタンにあたるシャイターン(ジンあるいはイブリースとも呼ばれる)は、天使として登場しますが人間を見下したことを神(アッラー)に咎められ、人間を惑わすようになった存在として描かれます。イスラム教の神秘思想スーフィズムでは、神に対する反逆ではなく神のみを信じるが故の行動として評価することもあります。
 キリスト教では、シャイターンを発展させたような形で堕天使としてのサタン像を確立します。エデンの園でイヴを誘惑し知恵の実を食べさせた蛇をその化身と同定し、より人格を強めた存在としてルシファーの別名の下に物語が形成され、ダンテの『神曲』やジョン・ミルトンの『失楽園』で取り上げられるに至って「もっとも人気のある悪魔」になりました。

グノーシス主義をはじめとするキリスト教神秘主義者たちにとっても「サタン=ルシファー」はひどく魅力的な存在であったようで、さまざまに解釈されています。例えば、蛇は人間に知恵を与えたことからギリシア神話のヘルメスやプロメテウスに比肩される善き存在とされたり、イヴを誘惑し知恵の実を食べさせた上子供を身ごもらせたとして「すべての人類の祖」とする説もあります。このイヴに子供を身ごもらせたサタンという概念は「聖女」に「神秘体験」を与える「偽りの神」にも通じる存在です。自身が名実ともに「神の花嫁」となったことを疑わない神秘主義者たちにとっては、正体が明らかになることで自身が「悪魔と通じた」淫婦とされてしまう恐ろしい存在であるとともに、自身を「蛇に誘惑されたイヴ」と同等にしてくれる魅力的な相手と見えていたのかもしれません。