真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

TOPICS

2015 November 20真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第5回 メデューサとギリシア神話

地母神としての怪物メデューサ

さて、今回のお題であるメデューサですが、恐ろしい怪物として神話には登場し、英雄ペルセウスに倒されることになります。ペルセウスの物語は数あるギリシア神話の英雄譚の中でも特に華々しいもので、メデューサとの戦いや囚われの美しい王女アンドロメダを救い出して結婚するなどエンタテインメント性が高いことで当時から人々に好まれていました。古くから数多くの絵画や戯曲等の題材となり、現代に至っても映画『タイタンの戦い』(1981年に公開されたアメリカ映画で、2010年にリメイクされその続編も作られました)になっているだけでなく、ゲームなどのモチーフにされる機会も少なくありません。そもそもペルセウスの物語自体が実にゲーム的なのですから、それも当然のことでしょう。

ペルセウスは例のごとく、ゼウスと人間の美女との間に生まれた子供です。古代ギリシアの都市のひとつアルゴスの王女ダナエは、後に生まれてくる息子が父親であるアルゴス王を殺すという神託のため幽閉されたのですが、目ざとく見初めたゼウスが「黄金の雨」に姿を変えて近づき、ペルセウスを身ごもらせます。
 ペルセウスが生まれると母ダナエとともに島流しにされるのですが、ダナエを手に入れようとする領主にとって邪魔な存在となり、到底実現不可能な難題を押し付けられることになります。それが光る目で人間を石に変えてしまう恐ろしい怪物メデューサ退治です。メデューサを嫌っている女神アテナの助力を得、メデューサ退治に必要なアイテムを求めてグライアイと呼ばれる三姉妹の老婆を訪ねます。アイテムの入手経路にはニンフたちやヘルメス神など異伝もありますが、金属製で反りのある剣、翼のある靴、かぶると姿が消える帽子、メデューサの首を入れるための袋をペルセウスは首尾よく手に入れました。それらのアイテムと、アテナに授けられた鏡のように磨かれた盾「アイギス」を使うことで姿を直視せず石化を避けてメデューサを倒したというのがメデューサ退治の物語のあらましです。

この物語でのメデューサは完全に悪者で、髪の毛の代わりに無数の毒蛇が生え、身体にも蛇が巻きついているなど恐ろしい見た目の怪物として描かれています。彼女にはふたりの姉がいて、やはり恐ろしい怪物の姿をしていることから、三姉妹を「ゴルゴン」とも呼びます。ペルセウスが冒険の途中で訪ねる「グライアイ三姉妹」もゴルゴンの姉妹で、ともにポルキュスとケトという海の神の兄妹から生まれたとされています。ポルキュスとケトは、大地そのものとされる地母神ガイアと、海そのものとされる海神ポントスの子とされていて、この二神から生まれた子たちはほとんどが怪物です。
 ガイアは怪物ばかりではなく多くの神々の母でもあり、当初は夫となる存在のいないまま独力でウラノスやポントスを生んでいます。その後ウラノスとの間にクロノスら神々とキュクロプスやヘカトンケイルといった巨人たちを生みました。ウラノス系の子孫が「オリュンポスの神々」となり、ポントス系の子孫はさまざまな怪物になっていったというわけです。
 こうした神話上の怪物は山や川などの自然だったり、人間の生活に被害をもたらす自然現象や、ストレートに動物を象徴化した存在と考えられていて、万物が大地そのものである母神から生まれたという地母神信仰の元になっています。特に「メソポタミア文明」と呼ばれるシュメールやバビロニアといった古代文明に代表される「オリエント神話」に地母神神話が多く見られ、世界各地に見られる粘土造形による女神像などにも通じる原初的な信仰に根差したものと考えられます。ギリシア神話は長い歴史を通じて独特の世界観を発展させましたが、特に原形的な部分はオリエント神話からの影響が強かったものと思われます。