真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 December 04真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第7回 オーディンとゲルマンの神々

こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。


第7回 オーディンとゲルマンの神々

ローマとゲルマンの関係

いわゆる「北欧神話」というのは、かつてヨーロッパの広い地域で信仰されていた神話体系の一部です。ジュリアス・シーザーことユリウス・カエサルが活躍した紀元前1世紀ごろの古代ローマ共和国は、ヨーロッパの一部を含む地中海沿岸地域をその領土に取り込んでいきました。その様子はカエサルの『ガリア戦記』などに詳しく記録されているのですが、そこにはローマが戦ったガリア人やゲルマン人といった人々の習俗も見聞した範囲で書かれていて、どんな神々を信奉していたかについてもその一端が垣間見えるのです。
 ガリア人が今でいうケルト人(の一部)だということは第2回「ダグザとケルト神話」でも触れましたが、『ガリア戦記』にはガリア人が「メルクリウスをもっとも崇めて」おり、次いで「アポロンとマルス、ユピテルとミネルウァを崇拝する」と書かれています。これはガリア人の神々をローマの神々にあてはめて挙げているため、ガリアで実際にどう呼ばれていた神なのかははっきりとはわかりません。ゲルマン人の信仰についてはさらに簡素に、「ガリア人とは大きく違って」いて、「彼らは目で見られもし、また恩恵を受けていることがはっきりしているものだけを、つまり太陽と火と月を、神々として崇める」(『ガリア戦記』國原吉之助訳 講談社学術文庫)とまとめています。
 『ガリア戦記』の後、古代ローマの歴史家タキトゥスが『ゲルマニア』でより詳細にゲルマン人の宗教についても書いているのですが、こちらではゲルマン人のもっとも崇拝する神がメルクリウスとされています。このメルクリウスが北欧神話の主神とされるオーディンを指しているというのは、定説と言っていいでしょう。

これら古代ローマの記録が「北欧神話」に関するもっとも古い記述ということになるのですが、記録の正確性についてはそれこそ古代ローマ時代から疑問が持たれていました。ローマにとってガリア人やゲルマン人は基本的に「蛮人」で、偏見や先入観を持ってみていたことは記録の文面からも読み取れます。内容についても地名や部族名からして間違っていたりもするので、信憑性に乏しいと言わざるを得ません。
 もともと「ゲルマン人」という呼び方もその対象が曖昧で、現在のドイツやポーランドあたりを「ゲルマニア」と呼んでそこに暮らす人々を指しているわけですが、そこにはケルト人やスラヴ人も住んでいました。どうもこのあたりは『ガリア戦記』の記録者もだいぶ「ごっちゃ」になっていたようです。
 そんなこんなで、古代ローマ文献は史実にしろ神話的なルーツを辿ろうとする上でもあまり信頼の置ける史料ではないのですが、ガリア人のドルイドを中心とする宗教構造が記されていることや、ガリアやゲルマンを含むローマ以外の人々の間にある程度共通した基盤を持つ宗教が広く浸透していたことが窺えるだけでも、当時を伝える貴重な情報源であることは間違いありません。

今回のタイトルとした「ゲルマンの神々」は、そうした広範囲の地域で信仰されていた神々を指し、北欧神話はそれらの中でもっともまとまった形で残っている神話ということになります。ここまでの文脈からはケルト神話も一緒にできそうな印象があるかと思いますが、ケルト神話をゲルマン神話と言ってしまうことについては異論もありますし、記事として既に取り上げているので今回そこには立ち入らないことにします。ただガリア人とゲルマン人は対立していましたが、地域的に近く互いに影響しあっていたことは間違いありません。どちらも言語的なルーツは同じインド・ヨーロッパ語族で、遠くインドあたりから発して枝分かれしたものということになりそうですし、伝わっていく過程でオリエント神話やギリシア神話から影響を受けて神話体系が形成されたのなら、近縁関係にあるといってもいいとは思います。そんな風に見てみると、ドルイドを頂点としたケルトの身分制度はインドのバラモンを頂点としたカースト(ヴァルナ)制度を思い起こさせますし、ガリアとゲルマンの対立やはインドとペルシアの対立関係に似ているような気がします。