真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 December 25真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第10回 チロンヌプとアイヌ神話

キタキツネの神「チロンヌプ」

アイヌも多神教文化を持っていて、この世の多くの動植物や自然現象に神が宿っているという、神道における「八百万の神」に近い考え方が基本になっています。ここでいう「神」が「カムイ」と呼ばれていることはよく知られていて、カムイたちは普段「カムイモシリ」という霊的な世界で暮らしていますが、さまざまな理由で人間たちの世界「アイヌモシリ」にやってくると考えられています。
 アメリカ先住民文化などにもよく似た考え方ですが、カムイを単なる「精霊」的存在と分類しにくいのは、カムイモシリにおけるカムイたちは人格も人間同様の姿かたちも持つ存在だということです。アイヌモシリにやってきたカムイが動植物の姿をしているのは、その姿になる「かぶりもの」を身につけている状態で、時にはそれを脱いで人間の姿を見せるのです。人間の姿になったカムイはアイヌと恋に落ち結婚したり、子供を作ったりもできます。
 アイヌの文化としてよく知られているもののひとつが「イオマンテ」と呼ばれる熊のカムイをカムイモシリに帰す儀式です。これは実のところアイヌの文化というよりも同じ北海道辺りに住んでいたオホーツク文化に属するもので、熊を食料として捕獲する猟と結びついた古くから伝わる儀式です。これがクローズアップされたことでアイヌを「野蛮人」と見る風潮に繋がったともいえますが、もともとこうした儀式は熊だけを対象とするものではなく、アイヌがあらゆるカムイを大切にする文化の一部に過ぎません。

チロンヌプはアイヌモシリのそこらにいる普通のカムイで、キタキツネそのものとそのカムイ両方を指します。アイヌ語の語源としては「われわれが(チ)どっさり殺す(ロンヌ)もの(プ)」という意味になり一般的な狩猟対象だったことが窺えますが、もともとはキタキツネに限らずタヌキやイタチといった小動物一般をもこう呼んでいたようです。例えば、キタキツネよりも強い力を持つ存在として「エゾイタチ(オコジョ)」のカムイがいますが、これは「ウパシチロンヌプ」と呼ばれます。
 また、クロキツネはアイヌで特別な存在とされていて、そのカムイはキツネの尊称である「シトゥンペカムイ」と呼ばれます。クロキツネは岬を守る存在で、災害などの危難を人間に知らせてくれる存在でもあります。
 キツネのカムイは『アイヌ神謡集』にも登場しています。「神謡」はカムイの一人称形式で歌われるのが特徴で、謡の最初と最後に「チロンヌプが語った」という一文が入ります。「トワトワト」と「ハイクンテレケ ハイコシテムトリ」というふたつの謡が収録されていますが、お祭り騒ぎをする人間に悪態をついたり、不思議な力を発揮して海に出た舟を転覆させようとするなど悪戯気の強い存在として描かれています。どこかヨーロッパの妖精にも似た存在であるところは、悪魔として登場するチロンヌプがかわいらしい外見をしているのも当然というところでしょう。主人公に同行するハレルヤという少年の相棒という役どころになりますが、どんな活躍を見せてくれるのか楽しみです。

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 次回の更新は、1月8日の予定です。新年最初ということで、これまでとは少し違ったテーマでお送りします。「人類の誕生と神々の誕生」がそのテーマとなりますので、どうぞお楽しみに。


塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。