真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 January 29真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第14回 アドラメレクと邪教の魔神たち

「悪魔」の概念の発達

先に挙げたバアルなどが悪魔とみなされるようになるのもキリスト教になってからのことですが、『新約聖書』を読んでいくと「悪魔」という言葉には「神の敵対者」あるいは「誘惑者」という意味合いが強くなっていき、ともすれば「異教の神々」以上に重視される傾向を見ることができます。

「神の敵対者」という考え方には「異教の神々」も含めることができるのですが、キリスト教の勢力圏が広がっていくと異教の脅威は薄れていきます。キリスト教が「ローマ」という強大な国家を後ろ盾にヨーロッパ全域に広がっていったことは第2回でも触れましたが、ケルトやゲルマン(第7回)の神々はキリスト教に取り込まれ、ヨーロッパの古い信仰は妖精伝説(第12回)などにその片鱗を見ることができる程度にまで弱体化されていったのです。
 異教の神々に代わる脅威としてクローズアップされていくのが、ユダヤ教やイスラム教、そして神秘思想色の濃いキリスト教内の異端派の存在です。中世期以降はそうした宗教上の対立相手を「悪魔」と呼ぶことが多くなります。『旧約聖書』を聖典とするユダヤ教・キリスト教・イスラム教はどれもモーセの「十戒」のひとつである「汝、殺すなかれ」を遵守する必要があるはずですが、対立が激化すると相手を殺害する必要も生じるため、相手を悪魔とみなすことで戒律を破っていないと判断されたようです。

「誘惑者」としての悪魔はイエス・キリストの頃から考え方としてありましたが、こちらも中世期に使われ方が変わっていきます。中世期のキリスト教は「教会の腐敗」が問題となっていたことは中学・高校の歴史でも出てくることですが、教区の住民から高い税を取り立てたり、神父などの地位をお金で買う「聖職売買」が行われたり、罪を犯してもお金で贖うことのできる「免罪符」を発行するなどの行為が横行していました。
 モーセの「十戒」には「汝、姦淫するなかれ」という一文もあって、中世期のキリスト教には性的な欲望を激しく敵視する傾向がありました。しかし教徒たちも人間ですから欲望に負けることは多く、妻帯の許されない聖職者がなかば公然と愛人を作っていることもあったようです。
 そんな欲望に負けた教徒たちがよく活用したのが「誘惑者」の存在です。性的な欲望に限らないことでもあるのですが、特に多かったのが性的なことであったのも確かで、元は妖精的な立場だったインキュバスやサキュバスといった夢魔たちが「悪魔」として大きくクローズアップされていったのもそうした流れによるものです。

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民衆の間に「悪魔」の概念が浸透し好まれるようになった背景には、もうひとつ「演劇」の影響も見逃せません。第12回で妖精の登場するシェイクスピア演劇について触れましたが、中世期の演劇では悪魔を題材とした作品も好まれたようです。
 決定的となったのは19世紀のゲーテの戯曲『ファウスト』の存在で、魔術師でもあるファウスト博士が悪魔メフィストフェレスと契約を交わして悲劇に見舞われることとなる物語は、その後の悪魔を描く文学や映像作品等に多大な影響を及ぼすことになりました。ある意味『メガテン』のルーツのひとつといってもいいでしょう。

神々についても同じことがいえるかもしれませんが、「悪魔」という存在はその誕生時から人間の都合に振り回されてきました。結局のところ、悪魔とは悪魔を利用しようとする人間そのものであるのかもしれません。

さて次回は、「テンカイと江戸曼荼羅」でお送りします。お楽しみに。



塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。