真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 February 19真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第17回 ジークフリードと英雄伝説

「アーサー王伝説」に結実する英雄伝説

ケルトの英雄たち、特に後期のフィン・マックールの物語と、ジークフリードの物語は、ロマンスと裏切りを軸とした物語になっています。これは中世ヨーロッパに流行した、いわゆる『騎士道物語』とも共通するもので、その代表的な物語である『アーサー王伝説』との類似点をいくつも発見することができます。

アーサー王の物語は、ドルイドと目される魔術師マーリンの存在や、魔法の剣を与える「湖の乙女」と呼ばれる妖精ヴィヴィアン、アーサーの異父姉である魔女モーガン・ル・フェイなどケルト神話や神々が変化したとされる妖精たちを登場させているという点でヨーロッパの古い伝説を色濃く残した物語と言えますが、キリストの聖杯探求を主軸に盛り込んでいたり、アーサーをはじめとする騎士たちが十字軍遠征以降の騎士たちの姿をしている点など、キリスト教文化の反映された物語でもあります。

アーサー王の存在自体は歴史上明確ではないものの実在した人物をモデルにしたと考えられていて、サクソン人と呼ばれるゲルマン系の侵略者と戦ったアンブロシウス・アウレリアヌスと、フランスでやはりゲルマン系のゴート族と戦ったリオタムスという、5世紀に活躍したふたりの英雄伝承が混ざったものではないかと言われています。そもそもが架空の人物で、まさに神話的英雄とされることもあっていまだに議論は尽きない状態なのですが、5世紀ごろの史実を元に神話的味付けをされて発展した英雄伝説という意味ではジークフリード伝説とよく似ていますし、伝わった地域も近いわけですから互いに影響を及ぼし合った可能性はあるはずです。

アーサー王の物語自体、ランスロットやトリスタン、マーリンなどそれぞれが古くから伝わりさまざまなバリエーションに発展していた物語群をひとつにまとめたもので、まとめられる試みも何度となく行われた末、現代スタンダードなものと認知されている15世紀のトーマス・マロリー『アーサー王の死』に行き着いています。それ以後もアーサー王の物語はさまざまな形で紡がれ続けていることは改めて言うまでもないことでしょう。
 ジークフリードの物語はゲルマンの英雄伝説がさまざまな形に変化した後、19世紀にワーグナーの『ニーベルンゲンの指輪』としてまとめられたわけですが、アーサー王の物語と比べると少なくとも日本ではまだまだ知られていない状態です。同じようにヨーロッパの古い歴史を感じさせてくれる英雄伝説として、もっと知られる機会が増えてもいいのではないかと思わずにはいられないところです。『メガテン』シリーズには『真・女神転生デビルサマナー』からジークフリードやハゲネが登場するようになりましたが、お馴染みというにはまだ日が浅い感があります。ジークフリードとハゲネの間にどんな因縁があるのか、伝承やそのバリエーションを知った上で見ていくと、一神教VS多神教陣営に分かれていることにも納得がいき、より親しみを感じられるのではないかと思います。

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ゲームも無事発売を迎えたので、このコラムも次回が連載としては実質的な最終回となります。これまでのまとめという意味も含めて、「神話と歴史」をテーマにお送りします。お楽しみに。


塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。