真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 March 18真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
補遺編1 クレオパトラとエジプト文明

クレオパトラとエジプト神話

ファラオを神と同一視したり、女神と神聖な結婚をしていた新王国時代以前と比べて、クレオパトラの時代は神話との繋がりが薄くなっています。アレクサンドリアの大図書館にはエジプトの神話ももちろん集められていたことと思われますが、逆にいえば他国の神話同様「過去の作り話」と捉えられていたのかもしれません。どちらにしても、クレオパトラの物語自体が波乱万丈でロマンティックなため、神話と関連付ける必要性などなかったとも言えます。

そんなクレオパトラも、デンデラというナイル川上流にある「ハトホル神殿」との関係は比較的よく伝わっています。太陽神ホルスの母親でラーの妃でもあるハトホルは古くから信仰されていた女神で、エジプト文明最初の女王とされるハトシェプストなどは自身をハトホルの娘と称していました。デンデラの神殿はプトレマイオス朝が始まるずっと以前に建設が始まったもので、クレオパトラがファラオになった頃にはその大部分が完成していたようです。しかしこの神殿は「クレオパトラによって建てられた」とされることが多く、その理由は壁面にクレオパトラとその息子カエサリオン(名前の通り、父親はカエサル)の姿が彫られているからです。クレオパトラには、自身が最盛期のファラオたちと並ぶ存在であるという意識があったのではないでしょうか。
 ちなみに、デンデラはエジプトの遺跡としては比較的マイナーな場所ですが、よく時代にそぐわない歴史的遺物(オーパーツ)の例に挙げられる「電球」(のように見える)浮き彫りがあることでも知られています。

神話との関連というより余談に近い話になりますが、クレオパトラの物語は『聖書』との繋がりがあるという意味でも面白味があります。
 というのは、イエス・キリストの磔刑に関わる重要な人物のひとりにヘロデ王(ヘロデ・アンティパス)という当時のイスラエル領主がいるのですが、その父親のヘロデ大王がクレオパトラの物語に登場しているのです。『聖書』に登場する前の若い頃ということになりますが、イスラエルがパルティアという国に襲撃された際にエジプトに逃れアントニウスとクレオパトラに保護されました。極端に考えればこのとき助けられなければ、キリストの磔刑もなかったといえそうですが、ヘロデはクレオパトラの暗殺を企てたが失敗したともされています。ヘロデはアントニウスの手引きでローマへ行き、数々の要人暗殺を行い成り上がってイスラエル領主となるわけですが、救世主の誕生を恐れて領内の赤子をすべて処刑させるという暴挙を行ったことになります。ただし、歴史上実際にそのような虐殺が行われたということは確認されていません。

DLCに登場するクレオパトラは白い肌に金髪のギリシャ風美女で、頭にはエジプト風のコブラを象った王冠をつけています。イベント中は、クレオパトラに関する有名な逸話のひとつとして17世紀のフランス哲学者ブレーズ・パスカルの「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていた」という言葉にかけた会話があります。

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 さて、当コラム補遺編はあと1回あります。「メフィストと演劇における悪魔」は、3月25日公開の予定です。お楽しみに。


塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV ワールドアナライズ』(一迅社)。
※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。