真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 January 22真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第13回 イナンナとオリエント神話

オリエント神話に描かれたイナンナ/イシュタル

英雄ギルガメシュの冒険を描いた『ギルガメシュ叙事詩』のイシュタルは、ギルガメシュに一目ぼれして結婚を迫った上、振られる役どころで登場します。しかも、それを恨みに思って父である天神アヌに復讐を頼み、結果としてギルガメシュの親友であるエンキドゥが死んでしまいます。叙事詩の中盤、第6から第7の書版にかけて書かれたこのエピソードは、シュメール語で刻まれた「ギルガメシュと天の牛」と呼ばれる文書にも、イシュタルがイナンナになった状態でほぼ同様に読むことができます。物語上悪役に近い印象になっているところは女神の持つ人間的な側面を表していますが、ある意味後に悪魔アスタロトと考えられるようになった遠因にも数えられそうです。

イナンナは南に位置するウルクという都市で盛んに信仰されていた女神で、アッカド時代以降にも人気があったとみられ、『ギルガメシュ叙事詩』以外にもさまざまなエピソードに登場しています。
 中でも特に知られているのが、「冥界下り」の物語です。ここでは、イナンナは姉である冥界の女神エレシュキガルを訪ねて冥界に向かいます。目的はエレシュキガルの夫が死んだためその葬儀に参列するためとされていますが、エレシュキガルは冥界に入ることは許したものの身に着けている衣服や装飾を取り去るよう門番に命じます。さらに、裸になったイナンナが姉の元までたどり着くと、冥界の法を犯し生きたままやってきたことに怒り狂ったエレシュキガルによって殺されてしまいます。イナンナの従者や水の神エンキが彼女を復活させますが、地上に戻るためには代わりに誰かを冥界に引き渡す必要があり、イナンナは夫とされる農業神ドゥムジ(アッカド語ではタンムーズ)を冥界に残すことしたという物語です。

神が冥界に下って戻ってくる物語は、太陽が毎夕に沈んでは朝になると東から登ったり、日食によって消されても元通りになる様子、また穀類が種の状態から豊かな実りに至り収穫によってまた種へと戻るサイクルを、豊穣神の死と再生で象徴的に表現した世界各地の神話に見られる類型パターンのひとつです。日本神話では、イザナギが死んだ妻イザナミを求めて冥界へ下った話だけでなく、太陽神アマテラスが岩戸に隠れ(太陽の死)戻るまでを描いた天岩戸神話や、殺害されバラバラになった大国主が母の手配で復活し国づくりを行うことになるエピソードにも同じ主題が含まれています。イナンナのこの物語からは、ギリシア神話の女神アフロディーテに愛された美少年アドニス冥界の女王ペルセポネにも愛され、一年間を通じて地上と冥界を行き来するようになる物語や、ペルセポネ自身が冥界の王ハデスに浚われ冥界のザクロを食べたため地上と冥界を行き来するようになった物語を思い起こさせます。イナンナはアフロディーテと同一視されてもいますし、イナンナの物語がギリシアに伝わってできたのだともいわれています。