真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2015 November 06真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第3回 クリシュナとインド神話

インド神話の誕生

ところで『西遊記』好きな人ならば、三蔵法師の向かった天竺がインドにあって、お釈迦様の故郷の地であると同時に仏教発祥の地でもあることをご存知のことと思います。そんなインドの現在で、仏教徒が0.7%しかいないというのも奇妙な話だと感じられるのではないでしょうか。

インドの宗教界が辿ってきた激動の歴史を振り返るならば、やはりまずは「インダス文明」にまで遡ることになります。インダス文明はその名の通りインダス川周辺に栄えた文明で、その流域は基本的には現在のパキスタンにあたります。ハラッパーやモヘンジョ・ダロといった、歴史の教科書にも載っている有名な遺跡がありますが、現在でも「インダス文字」が解読できていないため文明形態もあまりよくわかっていません。
 紀元前3000年代には初期の都市群が造られていたとされますが、インダス文明以前にも農耕や牧畜を含めた人々の集団生活が行われていた形跡はあり、それは新石器時代の紀元前7000年くらいまで遡ることができることが確認されています。古くから生贄をともなう宗教的儀式が行われていて、遺跡によって異なりますが火を使った祭祀や、後のシヴァ神信仰を連想させる「男根(リンガ)」像なども見つかっています。テラコッタの女神像も、後にヒンドゥー教で大きな勢力となる七母神(ブラフマーやシヴァ、ヴィシュヌ、インドラといった神々の妃たちのこと)信仰の原形と考えられます。
 インダス文明は紀元前1500年ごろから衰退し滅亡したとされていますが、その理由ははっきりとはわかっていません。気候の変化とともに有力視されているのがアーリア人の侵入で、少なくともインダス文明衰退後の同地域はアーリア人が住むようになり、ヒンドゥー教の原形となる「バラモン教」を信奉していました。この時にインダス文明の宗教を受け継いだのかははっきりとしませんが、シヴァ神の原形となる「嵐の神ルドラ」はバラモン教で信仰されていました。他に、雷神インドラや火神アグニ、水神ヴァルナといった神々がこの時代の重要な存在でした。
 バラモン教の聖典とされるのが、『リグ・ヴェーダ』をはじめとする「ヴェーダ文献群」です。名前のかっこよさからゲームやマンガでよく使われていますが、さまざまな神に捧げる散文詩的な賛歌や祭式の作法、祝詞などを中心に多数の文献によって構成されています。紀元前1200年ごろから編纂が始まり、紀元前800年ごろにはヴェーダ文献それぞれを解説する「ウパニシャッド」と呼ばれるサブテキスト的な書物群も作られはじめ、これらも聖典に含まれています。インドの神話はこの頃にはおおまかな形ができていたと考えられます。

その後、紀元前2世紀ごろから作られ始めたとされる『マヌ法典』によって、バラモン教のさまざまな法律とともに神話が洗練された形でまとめられます。創世神話なども揃ったところで、神話の枠組みが完成に近づくのですが、この頃にはギリシアやエトルリアといったヨーロッパの文明からの影響が大きく入り込んでいたとされ、ギリシア神話やオリエント神話の影響も受けていたと考えて間違いないでしょう。