2015 October 23真4Fと神話世界への旅
塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第1回 一神教と多神教
多神教から生まれた一神教
実のところ、一神教が他の宗教を認めないというのはその出自に理由が求められます。歴史的に見れば一神教は新しい宗教で、元をたどれば多神教から生まれたものといえます。
キリスト教とイスラム教はユダヤ教から派生したもの、といえますが、そのユダヤ教は古代ペルシアの「ゾロアスター教」に強く影響を受けて生まれたものとされています。ゾロアスター教は善神アフラ・マズダーと悪神アンリ・マンユの善悪二神の対立に象徴される善悪二元論を基本としていますが、原初の形態の一神教と考えられています。アンリ・マンユはアフラ・マズダーの一部が分離したものという考え方で、元々多神教的にさまざまな役割を持つ神々がいましたが、それらを「天使」としてアフラ・マズダーに帰属させることで「一神教」としての体裁を固めていったものと思われます。
ゾロアスター教の成立する以前のペルシアは、同一民族を祖にし歴史的な対立も含めて関係性の深いインドの宗教(ヴェーダ教や、後のヒンドゥー教)とよく似た多神教を信奉していました。ペルシアの宗教とインドの宗教は、まるで鏡のように逆転した関係にあります。ペルシアの善神アフラは、インドでは悪鬼アシュラと考えられていましたし、ペルシアの悪魔の総称であるダエーワは、インドの神々デーヴァのことを指しています。ゾロアスター教は、多神教から一神教への大変革を遂げた当時の新興宗教だったわけです。
多神教から一神教へ変化しようとする動きは、ペルシアに限らず世界の各地で起こっています。例えばインドでもヴェーダ教からヒンドゥー教へと変わっていく中、ヴィシュヌやシヴァといった強い神格に信仰対象を集約していきました。ヴィシュヌが、クリシュナやラーマ、ナラシンハ、そして仏陀といったそれぞれ人気のあった存在を吸収しヴィシュヌの化身だったとしたことは唯一神化のあらわれといってもいいでしょう。
多神教から一神教へと変革していったことは、世界が時代によって変化していくことに対応する必然的な変化だったのかもしれません。多神教はもともと、社会が未発達で原始的な状態に発生したものと考えられます。狩猟や採集で食料を賄っていた時代は、日によって収穫の差も大きく神や精霊に安定供給を願ったでしょうし、巨大な獲物を含めた驚異的な動物や自然現象を恐れ鎮めるために祈ることから原初の宗教が生まれたものと考えられます。農耕が始まった後も、水害などの天災は怒れる神の行いと考え恐ろしい雷神や、収穫をもたらす日光を神聖視した太陽神などが想像されていったことは間違いないでしょう。
そんな風に長い年月をかけて作られていった多神教文化は、文明の発達とともに意味が薄れていきます。かつて脅威だった水害も、灌漑が進めば被害の減少とともに雷神を恐れない世代が生まれることで信仰が失われていったことでしょう。また、宗教として強い求心力を保つために信仰対象を一本化することも効果的です。さまざまな地域の神話世界で改革は行われ、古くは神々の中心的存在であった雷神が太陽神に立場を奪われたり、太陽神が他神格と比べて圧倒的な力を持つ存在としてクローズアップされる傾向が見られます。